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菊は万葉集には詠われていない。平安初期に中国から渡来したらしい。
『源氏物語』では、六条院の冬の町に植えられ、「冬の初めの朝露結ぶべき菊の籬(少女の巻)」とある。白い盛りのときと、「移ろひ盛り」といって、盛りを過ぎて白が紫色に変化したときの二度賞美された。
『紫式部日記』には、「重陽の菊の着せ綿」の記事がある。重陽の節句の前夜に、菊の花に真綿を覆っておき、あくる朝夜露に濡れて菊の香りがうつった綿で顔や体をぬぐうと老いが除くとされた。
菊には大中小があるが、その親は大部分が野路菊である。 |
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雲居雁の乳母の大輔(たいふ)が、
「結婚相手が六位ふぜいでは」
とつぶやいていた夜のことを、なにかのたびに思い出していらっしゃったので、とても美しく紫色に色変わりした白菊を大輔に渡して、
あさみどり わか葉の菊を つゆにても こき紫の 色とかけきや
(浅緑の六位の袍(ほう)を着ていたわたしが、濃い紫の袍を着るとは夢にも思わなかっただろう)
辛い思いをさせられたあの時の一言は忘れられない」
と、とても美しく微笑んでおっしゃる。乳母の大輔は恥ずかしく気の毒なことをしたと思うものの、そんな中納言を可愛く思う。
「二葉より 名だたる園の 菊なれば あさき色わく 露もなかりき
(幼い時から名門の若君ですから 浅緑といって差別する気持ちなどまったくありませんでした)
どうしてそんなに気を悪くなさったのでしょう」
と、実に物慣れた感じで言い訳をする。 |
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[藤裏葉] |
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三澤憲治訳『真訳 源氏物語』から抜粋 |
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