|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
儀式能 『翁』(おきな)
翁 総角(あげまき)やどんどうや。
地謡 尋(ひろ)ばかりやどんどうや (翁と三番三は向かい合って、立つ)。
翁 坐(ざ)して居(ゐ)たれども (大小前へ出る)、
地謡 参らうれんげりや (正面を向く)、どんどうや (扇をいただく)。
翁 ちはやふる (両手を大きく左右にひろげる)、神のひこさの昔より、久しかれとぞ祝ひ、
地謡 そよやりちやどんどや (手を下ろす)。
翁は、両手を大きく左右にひらいて、扇をかかげ、「およそ千年の」と謡い、「在原や」から謡に合わせて舞う。続いて「翁ノ舞」を舞う。中央で留める。
翁 (両手を左右にひろげて) およそ千年(せんねん)の鶴は、万歳(ばんぜい)楽(らく)と謡うたり。また万代(ばんだい)の池の亀は、甲に三極(さんきよく)を戴(いただ)いたり。滝の水、冷々(れいれい)と落ちて、夜の月あざやかに浮んだり。渚の砂(いさご)、索々(さくさく)として、朝(あした)の日の色を朗(らう)ず。天下(てんが)、泰平国土(こくど)安穏(あんのん)の、今日の、御祈祷(ごきたう)なり。
翁 在原や、なじよの翁ども (脇正面を向き、手を下ろす)。
地謡 あれはなじよの翁ども (大小前へ出る)、そやいづくの 翁とうとう。
翁 そよや。
〔翁ノ舞〕 翁は、中央に立ち、両手を大きく左右にひらいて、「千秋万歳」と謡い出す。掛合いの謡があって、扇をいただいて留める。
翁 (中央で両手をひろげて) 干(せん)秋(しう)万歳(ばんぜい)、喜びの舞なれば、一(ひと)舞(まい)舞はう万歳(まんざい)楽(らく)。
地謡 万歳楽。
翁 万歳楽。
地謡 万歳楽 (扇をいただいて留める)。
ここには、個性を失くした土俗・儀式歌・祝言の形式しか存在しない。
この支配層が秘儀舞いとして保存したものの形式は、まさにあるがままの生活民の形式と同じものである。
この『翁』」にある不気味さ (「千歳」とか「万歳楽」とか「千代」とか「鶴と亀」とかいう永続を象徴する言語の呪術的なおそろしさ) を読もうとすれば、狂言の面白さと滑稽さを、同じような不気味さの形式として読み取るべきである。
ここに、芸術表現の本質的な問題が現れる。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|