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狂言 『三人百しやう』(さんにんひゃくしょう)

 『三人百しやう』は、現在の狂言の『昆布柿』に対応している。

 たんはの国の者かきを以て出る。
 ゑち前の国の者かみを以て出る。
 わかさの国の者こふを以て出る。
 中渡にてにて行合て、せれふ。
 都につきて、おそきとてしからるゝ。
 歌よまする。
 今年よりしよりやうの日記かきそへて、よろこふまゝに所さかへり。
 酒のまする。
 此歌をまふて帰る。
 ふへとめ。

 現代語訳にすると、
 丹波の国の者が柿を持って登場する。
 越前の国の者が紙を持って登場する。
 若狭の国の者がこぶを持って登場する。
 途中ででくわして、ことばをかわす。
 都に着いて遅いといってしかられる。
 (取次ぎ役が三人に)歌をよませる。
 ことしから領主の日記に柿を加えるように、いろいろ喜び事を書き加えて、よろこぶままに所は繁栄している。
 (取次ぎ役が三人に)酒を飲ませる。
 (三人は)この歌にあわせて舞って、(ふるさとに)帰る。
 笛留。

 これで全文である。
 脚本の覚えがきとおなじで、言語のなかに登場する人物が、自ら語り、対話し、所作するというふうには書かれていない。
 ただ、所作ごとの場面へ人物がでることを説明し、所作自体を演じられる劇にゆだねている。
 いわばこれは、物語としての言語と劇としての言語の中間にあるものである。
 この『三人百しやう』では、丹波の百姓と越前の百姓と若狭の百姓とが、貢物である柿、紙、昆布を献上するために都へ上り、領主から歌を詠めと命ぜられて
「今年よりしよりやうの日記かきそへて、よろこふまゝに所さかへり」
 という、柿、紙、昆布を読みこんだ歌をつくる。所作をべつにすれば、狂言としての面白さは、三十一文字の歌など知らない百姓が、歌をよめと強いられて、貢物の名を折りこんだ歌をよんでお賞めにあずかるという点にあることは明白である。
 ところで、この『三人百しやう』は、物語性を所作ごとのなかに抽出することによって、できるかぎり劇的表現にちかづこうとしているが、まだ、本当の意味で言語としての劇的表現とはいえない過渡形であることをよく示している。
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