Key1 内面の気持ちを〈〉で表示
Key2 文章を入れ替えて訳す
Key3 紫式部の表現の深さ
Key4 千年の命の源
Key5 主語は誰か?
Key6 紫式部の相対描写
Key7 「人ひとり」とは誰か?
Key8 外来語は使わない
Key9 原文を読むおもしろさ
Key10 紫式部の心の深さ
Key11 わからなければ音読
●内面の気持ちを〈〉で表示
 わたしは演劇人だから演劇人なりに『源氏物語』の現代語訳で、ひとつの手法を思いついた。  
 それは作中人物の内面の気持ちを〈〉で示すということである。例えば、

 内裏にいかに求めさせたまふらむを、 いづこに尋ぬらんと思しやりて、かつはあやしの心や、六条わたりにもいかに思ひ乱れたまふらん、恨みられんに苦しうことわりなりと、いとほしき筋はまづ思ひきこえたまふ。何心もなきさしむかひをあはれと思すままに、あまり心深く、見る人も苦しき御ありさまをすこし取り捨てばやと、 思ひくらべられたまひける。  

 という原文は次のように訳した。   

 (源氏の君は)
〈帝はどんなにじぶんを捜しておられることか、どこを捜しておられるのだろう?〉  
 と思われ、一方では
〈(こんな女に心を奪われるとは)じぶんながら不思議だ、六条の方もどんなに悩んでおられることか、恨まれるのは辛いけど 無理もない〉  
 と、気の毒がられ真っ先に思い出される。無心であどけなく座っている目の前の女を
〈可愛い〉
 と思われると、
〈(六条の方の)あまりにも思慮深く、こっちが息苦しくなるような態度を少しでもしなくなったら(いいのに)〉
 と、つい比較される。  
 原文にない言葉は()で示しているので、()や〈〉が多くて読みづらいだろうが、それさえ気にしなければ意味ははっきりわかると思う。
 〈〉という手法を発見したことによって、確実に演劇化への一歩を踏み出したといえる。
三澤憲治
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