『源氏物語』参考文献
『長恨歌』現代語訳
『古事記』現代語訳
『源氏物語玉の小櫛』現代語訳
『和泉式部日記』現代語訳
『和泉式部集〔正集〕』現代語訳
『和泉式部集〔続集〕』現代語訳
『赤染衛門集』現代語訳
『清少納言集』現代語訳
『藤三位集』現代語訳
『蜻蛉日記』現代語訳
『枕草子』現代語訳
「源氏物語玉の小櫛」本居宣長
「源氏物語玉の小櫛」は、本居宣長が六十四歳(1793年 寛政五年)の頃に起稿し、寛政八年に完成した「源氏物語」の注釈書である。
すべての物語書の事  
 中古の頃、物語といって、一種類の書がある、今の世で、「はなし」というもので、昔話のことである。『日本書紀』に、「談」という文字を、「ものがたり」と読んでいる。それを書名にして、創作したのは、(『源氏物語』の)絵合の巻に、物語の出てきはじめの祖である、「竹取(物語)」の翁に、「宇津保(物語)」の俊蔭(としかげ)をあわせて争ったことが見えるから、この『竹取物語』が最初だろう。『竹取物語』を、いつ誰が作ったかは、はっきりとは知らないが、そんなに古い作品とも思えず、延喜の頃よりは、後の時代のものと思える。そのほか同じ種類の、古物語が、『源氏物語』以前にも、たくさんあったらしく、その名も、いろいろ知られているが、後世には、伝わらないものが多いようである。また同じ頃、それより後の作品も、多く、現在も、いろいろたくさん伝わっている。『栄華物語』の、「煙の後」の巻に、
「物語合わせをするために、新しい作品を作って、左右に人をわけて、二十人の作を合わせたりされたが、とてもおもしろかった」
 という記事があるのを見ると、その頃も、たくさん作られたのだ。    
 さて物語の作風は、それぞれ多少の違いがあり、種類もいろいろだが、いづれも、昔の世にあったことを、語るという感じで、あるいは多少は実際にあったことを、基にして、作り変え、あるいは実名を隠したり、変えたりして書き、あるいは全部を創作もするが、また稀には、実際にあったことを、そのまま書いたものもあって、さまざまだが、まずだいたいが創作したものである。
 さて物語とはどういう趣旨のもので、何のために読むものかというと、だいたい物語は、世の中にありとありそうな、善いこと 悪いこと、珍しいこと 興味のあること、おもしろいこと 悲しいことなどのさまざまなことを、書きあらわし、その様子を、絵にも書いたりして、閑暇を満たすよすがにし、また心がふさいで、心配なことが多いときの慰めにもして、世の中のあるべき姿をわかるようになり、「もののあわれ」をも知るようになるものだ。だからどんな物語も、男女の間の関わりを、主題として多く書いているのは、代々の歌集にも、恋の歌が多いのと同じ理由であって、人の情(こころ)が深くかかわるのは、恋にまさるものはないからである。すべてこれらのことについては、さらに次々詳しく述べよう。
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