長くは続かない前世の定めだから寵愛した
「中の品」の女だから拒絶するしかない
愛着から憎悪に変貌する少女
源氏にとって藤壺と紫の上とには差異はない
受苦の人、紫の上の生命の凋落
喪服の大君と心に喪服をつけた薫との愛恋
平安の女が涙ながらに詠む返歌
自然の現象にじぶんの境遇を重ねる平安の女
「源氏物語」の女性に必ずやってくる〈あわれ〉の実態
源氏にとって藤壺と紫の上とには差異はない
 ちょうど鴛鴦(おしどり)が鳴いているので、

かきつめて むかし恋しき 雪もよに あはれを添ふる 鴛鴦(おし)のうきねか
(昔のことが恋しく思い出される雪の夜に 哀れをそそる鴛鴦の悲しい鳴き声)

 源氏の君は寝所にお入りになっても、藤壺の宮のことを思いながらおやすみになると、夢とも現ともなく、ほのかに藤壺の宮の姿をごらんになったが、宮はたいそう恨んでいらっしゃる様子で、
「あれほどわたしとのことは漏らさないとおっしゃったのに、浮名があらわれてしまったので、恥ずかしい。冥界で苦患に責められているのも、恨めしい」
 とおっしゃる。源氏の君は返事をしようと思っている時に、なにかに襲われるような気持ちがして、紫の上の、
「これは。どうしてこんなに脅えて」
 とおっしゃる声にはっと目が覚めたので、夢が覚めたのがたいへん残念で、胸がどうしようもなく騒ぐので、押さえていると、涙もあふれ出てきた。夢から覚めた今もなおひどく頬を濡らしていらっしゃる。女君は、
〈なにがあったのだろう〉
 と思われるが、源氏の君は身じろぎもしないで臥していらっしゃる。
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