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広島ハムレット
Hiroshima HAMLET シナリオ
Hiroshima HAMLET パート1
オープニングクレジット

黒色
N.A.C Hiroshima PRESENTS

写真
Hiroshima HAMLET(ロゴ)

原作 ウィリアム・シェイクスピア
脚本 三澤憲治
音楽 高橋一之
舞台照明 木谷幸江
小林由芽
畑田清彰
深田ちひろ
中島千鶴
監督 三澤憲治

シーン1

カット1 ハムレット


 父の死体を見て号泣する。

カット2 ハムレット

 ハムレットは母とクローディアスの抱擁を発見する。

カット3 ガートルード クローディアス

 母とクローディアスの抱擁。

カット4 ハムレット  

 ハムレットは憎悪する。

カット5 ハムレット

 ハムレットは懊悩する。  

カットる6 ハムレット

 ハムレットは沈鬱に歩いてきて座り込む。

 この@からEのカットにハムレットの叔父である新国王(クローディアス)の演説が流れる。

クローディアス 兄、ハムレット王の死は、いまだに記憶に新しい。わたしたちはみな悲しみに沈み、国を挙げて喪に服している。
だがわたしはあえて自然の情と闘い、兄の死を悲しみながらも、本分を忘れないよう努めてきた。
だからこそ、わたしはかつての兄嫁を妃とし、武勇の国の王位を継ぐことにした。
いわば悲しみと喜びをもって、一方の目には笑み、もう一方の目には涙、葬儀には祝福の歌、婚礼には挽歌を奏で、妻に迎えたのだ。

 宮廷の人々は絶大なる拍手をする。

シーン2

カット1 ハムレット

ハムレット
 いっそこの固い体が溶けて、なくなってしまえばいい・・・・・・自殺が罪でなければ、神よ、どうすれば・・・・・・」

カット2 ハムレット
 
 突然動き出して、

ハムレット
 ああ、いやだいやだ!退屈で、味気なく、無意味な日々。あたり一面、むかつくような悪臭・・・

カット3 ハムレット

ハムレット
 どうなってるんだ。亡くなってまだふた月にもならない。立派な王だった。あいつとは比べものにならない。心から母を愛してた。母だって父を愛してたのに、それがひと月であいつと結婚した。もろい、もろすぎる、女はもろす
ぎる!

カット4 王 王妃

 
 ハムレットがクロスフェードすると、王と王妃が睦まじく宮殿の外壁を散歩している。 

シーン3

カット1 ホレイショー、マーセラス、バナードー

 
 ホレイショー、マーセラス、バナードーが急いで来てハムレットを捜す。 ハムレットを発見してハムレットのところへ行く。
 ハムレットは横たわっている。

カット2 ホレイショーマーセラス、バナードー 

ホレイショー 
殿下!

カット3 ハムレット 

ホレイショーの声
 殿下!
 
 呼び声に気づき、やおら見ると親友のホレイショー、突然の訪問にびっくりする。

ハムレット
 ホレイショーか。

カット4 ホレイショー  
 
 ハムレットを見ている。

カット5 ハムレット、ホレイショー

ハムレット
 ウィッテンバーグからいつ? 大学はどうした?
ホレイショー さぼったんです。
ハムレット うそつけ。エルシノアへ何の用だ?

カット6 ホレイショー


ホレイショー
 父上のご葬儀に。

カット7 ハムレット、ホレイショー

ハムレット
 またまた、母の婚礼を見にきたんだろ?

カット8 ホレイショー、バナードー、マーセラス

ホレイショー
 そういえば、急なことで。

カット9 ハムレット

ハムレット 
節約、節約だよ、ホレイショー。葬式の料理を婚礼にまわしたんだ。まったく見られたもんじゃなかったぜ。
ホレイショー ・・・  
 
 ハムレットは動く。

カット10 ハムレット、ホレイショー  
 
 ハムレットは動きから止まって、
ハムレット ・・・ああ、父が生きていれば・・・
ホレイショー 立派な国王でした。
ハムレット 二度と会えない。
ホレイショー ・・・殿下、  
 
 ハムレットに近づいて、
ホレイショー 実はゆうべお会いしたような・・・

カット11 ハムレット、ホレイショー

ハムレット
 ・・・だれに?

カット12 ホレイショー、ハムレット

ホレイショー
 ・・・お父上です。

カット13 ハムレット、ホレイショー

ハムレット
 父に?

カット14 ホレイショー、ハムレット

ホレイショー
 はい。あの二人が証人です。
 ハムレットは二人を見る。

カット15 バナードー マーセラス
 
 バナードー マーセラスはハムレットを見る。

カット16 ハムレット、ホレイショー  
 
 二人を見たハムレットは、重大なことを察して人目に見つからないところを捜しに行く。ホレイショー、マーセラス、バナードーは後を追う。

シーン4

カット1  ハムレット、ホレイショー、マーセラス、バナードー


 ハムレットとホレイショーたちは急いで階段を下りてきて、

ハムレット
 どういうことだ?
ホレイショー 実は、この二人が見張りをしてたとき、真夜中に二晩つづけて、お父上そっくりの亡霊が現れたのです。

カット2 ハムレット  
 
 ハムレットは驚く。
ホレイショー あまりの恐ろしさに二人は口もきけずわたしに打ち明けたので、三日目の晩はわたしも見張りに。

カット3 ホレイショー

ホレイショー すると、二人が言ったとおり、

カット4 ハムレット ホレイショー

ホレイショー
 同じ時刻、同じ甲冑姿で現れたのです。
ハムレット ・・・場所は?

カット5 マーセラス バナードー

マーセラス
 城壁の上です。

カット6 ハムレット、ホレイショー マーセラス バナードー
 
 ハムレットはマーセラスのところへ駆け寄って、
ハムレット 話しかけたのか?
ホレイショー はい。

カット7 ホレイショー

ホレイショー
 だが何も言いません。

カット8 ハムレット バナードー

ホレイショー
 一度、なにか言いたそうでしたが、そのとき一番鶏が鳴いたので、慌てて姿を消しました。
ハムレット ・・・不思議な話だ。

カット9 ハムレット ホレイショー マーセラス バナードー

ホレイショー
 ほんとうのことです。
ハムレット 今夜も見張りを?
バナードー、マーセラス はい。
ハムレット 甲冑姿と言ったな?
バナードー、マーセラス はい。
ハムレット 全身か?
バナードー、マーセラス はい。
ハムレット 顔は?
バナードー、マーセラス はっきりと。
ハムレット 怒ってたか?

カット10 ホレイショー

ホレイショー
 いいえ、悲しそうな・・・

カット11 ハムレット ホレイショー
 
 ハムレットはホレイショーに近づいて、
ハムレット 目は?
ホレイショー じっと私を・・・
ハムレット (感情が激して)見たかった。
ホレイショー きっと驚かれたはず。
ハムレット ・・・今夜はおれも行く。また現れるかも・・・
ホレイショー 必ず現れます。

カット12 ハムレット、ホレイショー、マーセラス、バナードー

ハムレット
 お願いだ、このことはだれにもしゃべらないでくれ。
ホレイショー ご命令どおりに。
ハムレット 命令ではない。お願いだ。
 
 ハムレットはバナードーとマーセラスにも

三人 はい。    
 
 ハムレットは退去を促す。 
 ホレイショー、マーセラス、バナードー去る。
 ハムレットをズームしていく。

ハムレット
 父の亡霊?どういうことだ?なにかある。きっとなにかある。ああ、夜が待ち遠しい。

シーン5

カット1 オフィーリア

 
 オフィーリアがケースを持って階段をかけあがってくる。

カット2 オフィーリア
 
 オフィーリアは鏡の前に来て、ケースを開ける。 ネックレスである。 オフィーリアはネックレスを取り出してケースを置く。 オフィーリアはネックレスを・・・

カット3 オフィーリア
 
 オフィーリアはネックレスをつける。

カット4 オフィーリア
 
 オフィーリアはネックレスをつけた姿をいろいろな角度から見る。

カット5 オフィーリア
 
 そんな喜びのオフィーリアに突然の声。

 オフィーリア!
 
 オフィーリアはその声にびっくり。 恋心を咄嗟に隠して声のほうに顔を向ける。
カット6 レアティーズ オフィーリア
 
 兄のレアティーズがやって来て、

レアティーズ 荷物は積んだ。じゃあ行くぞ、オフィーリア。元気でな。
オフィーリア お兄さんも。
 
 兄妹は抱き合う。

カット7 オフィーリア、レアティーズ  
 
 抱き合ったまま、

レアティーズ
 ・・・手紙を書けよ。

カット8 オフィーリア 

オフィーリア
 書かないと思って? 

カット9 レアティーズ オフィーリア
 
 レアティーズはオフィーリアの目を見て、

レアティーズ いいか、ハムレット様のご好意は、ただの気まぐれ。
 
 鉢植えのスミレを見て、

レアティーズ 早咲きのスミレみたいなもんだ。
 
 スミレが見える。

レアティーズ  咲くのは早いがすぐに萎む。それだけだ。
オフィーリア ・・・それだけかしら?  
 
 オフィリアは兄から離れる。

カット10 オフィーリア、レアティーズ  
 
 オフィリアは兄から離れて、

レアティーズ ああ、それだけだ。たとえ愛してると言われても、自分の好き勝手にできない身分の方だ。
オフィーリア ・・・
レアティーズ ・・・うちとはちがって、妃選びには制約があり、デンマーク国民の同意もえなければならない。
オフィーリア ・・・
 
 オフィーリアはネックレスを見て(あるいは触り)ハムレットのことを思う。
 レアティーズはオフィーリアの前に行く。 

カット11 レアティーズ オフィーリア
 
 レアティーズはオフィーリアの前に行って、

レアティーズ  甘い言葉を真に受けて、純潔を捧げたら、お前が傷つくだけだぞ。

カット12 オフィーリア レアティーズ

レアティーズ
 いいなオフィーリア、気をつけろ。とかく青春の血は騒ぐものだからな。

 オフィーリアは鉢植えのスミレを見る。

カット13 スミレ  
 
 可憐に咲いているスミレの花。

カット14 オフィーリア、レアティーズ
 
 スミレを見ているオフィーリア。 そして、振り返って、

オフィーリア
 わかったわ。
レアティーズ (微笑む)
オフィーリア ・・・でもお兄様、わたしには厳しいこと言って、自分は遊び放題。あっちこっちの花を摘んだりしたら、許さないわよ。
 
 オフィーリアはレアティーズをつねる。

レアティーズ (笑って)イタイ、イタイ、  

 レアティーズは廊下のほうへ逃げる。

カット15 オフィーリア、レアティーズ

 
 オフィーリアはなおも手を放さない。

レアティーズ イタイ、イタイ、わかった、わかった、おれはそんな男じゃないよ。
 
 兄妹はじゃれあう。 そこへ声。

 レアティーズ! 何をしてる?  
 
 二人は静かになり、階下を見る。

カット16 ポローニアス  
 
 階下から二階を見上げて、

ポローニアス 早くしろ!

カット17 レアティーズ、オフィーリア  
 
 二階からポローニアスを見ていて、

レアティーズ は、はい。

カット18 レアティーズ、オフィーリア
 
 レアティーズとオフィーリアは階段を下りる。

カット19 レアティーズ オフィーリア ポローニアス   
 
 ポローニアスはソファーに座っている。 レアティーズとオフィーリアが降りてくると、

ポローニアス なにをしてた。早くここへ座れ!
レアティーズ はい。

 レアティズーはソファに座る。オフィーリアも座る。

カット20 ポローニアス レアティーズ

ポローニアス ・・・いいか、フランスに行ったら、思ったことを口に出すな。過激な行動はしないこと。
レアティーズ はい。
ポローニアス 人には親しく、だがなれなれしくはするな。これと決めた友達は、絶対に手放すな。
レアティーズ (うなずく)
ポローニアス 喧嘩はするな。巻き込まれたらとことんやれ。
レアティーズ (笑って) わかりました。  
 
 レアティーズは立ち上がる。

カット21 ポローニアス レアティーズ  
 
 ポローニアスも立ち上がって、

ポローニアス 人の話はよく聞き、自分の意見はめったに言うな。服装は金の許す限りいいものを。けばけばしいのはいかんぞ。服装は人格を表すからな。
レアティーズ わかってます。

 レアティーズはエントランスのほうへ行く。

カット22 レアティーズ ポローニアス オフィーリア
 
 ポローニアスは後を追いかけながら、
ポローニアス 金の貸し借りはするな。貸せば金を失い友も失う。借りれば倹約しなくなる。それから・・・何よりも自分に忠実であること。
 
 オフィーリアを見て、

ポローニアス それを守れば、だれにも忠実になれる。
レアティーズ (うなずいて)わかりました。
ポローニアス なら行ってこい。元気でな。
レアティーズ 父上も。  
 
 レアティーズはオフィーリアのそばに行く。

カット23 レアティーズ オフィーリア  
 
 オフィーリアの顔近くで、

レアティーズ
 さっき言ったこと、忘れるなよ。

カット24 オフィーリア レアティーズ

オフィーリア
 ええ、この胸に錠をおろし、鍵はお兄様に。

カット25  レアティーズ オフィーリア

レアティーズ
 (微笑む)  
ポローニアスの声 レアティーズ・・・

カット26 オアィーリア レアティーズ ポローニアス  

ポローニアス
 ・・・もう時間だ、行け!  
 
 レアティーズはエントランスのほうへ行く。

カット27 レアティーズ ポローニアス オフィーリア
 
 レアティーズはオフィーリアに、

レアティーズ
 じゃあ元気で。
 
 ポローニアスに、

レアティーズ 行ってきます。  
 
 レアティーズは去る。 オフィーリアは追う。

カット28 レアティーズ
 
 レアテイーズは振り返って手を振る。

カット29 オフィーリア ポローニアス
 
 オフィーリアとポローニアスは手を振って応える。

カット30 レアティーズ
 
 レアティーズは旅立ってゆく。

カット31 オフィーリア ポローニアス
 
 オフィーリアが兄を見送ってじぶんの部屋に行こうとすると、

ポローニアス
 さっき言ったこととはなんだ?  
 
 オフィーリアは立ち止まり、

オフィーリア
 ・・・ハムレット様のことでちょっと。
ポローニアス 最近よくお前のところへ来られるそうだな。

カット32 オフィーリア

オフィーリア
 愛してると。

カット33 ポローニアス オフィーリア

ポローニアス
 愛してる? ばかばかしい。・・・真に受けてるのか?

カット34 オフィーリア

オフィーリア
 どうしたらいいのか・・・

カット35 ポローニアス オフィーリア

ポローニアス
 じゃあ、教えてやる。もっと自分を大切にしろ。
オフィーリア でも、とても真剣です。
ポローニアス なにが真剣だ。

カット36 オフィーリア

オフィーリア
 ほんとうです。何度も誓いを。

カット37 ポローニアス オフィーリア

ポローニアス
 それは罠だ。女がほしくなると、男はやたらに誓いを立てたがるものだ。

カット38 オフィーリア ポローニアス

ポローニアス
 ・・・いいか、これからは殿下となれなれしくするな。口をきいてもいかん。わかったな。
オフィーリア ・・・はい、言われたとおりに。

カット39 ポローニアス 

ポローニアス
 ・・・そうか、なら、すぐにネックレスをはずせ。

カット40 オフィーリア
 
 オフィーリアはネックレスがハムレットからの贈り物だと父が知っていることに恐れを感じる。

カット41 オフィーリア
 
 オフィーリアは仕方なく父の前でネックレスをはずす。(ズームアウト)

シーン6

カット1
 バナードー マーセラス ホレイショー ハムレット

 バナードー マーセラス ホレイショー ハムレットが階段を上がってくる。

カット2 バナードー マーセラス ホレイショー ハムレット
 
 
 ホレイショー、マーセラス、バナードがやってくる。
 後からハムレットがやって来てあたりを探る。

ハムレット 
・・・風が強いな?  
 
 ハムレットはなおもあたりを探る。
 ほかの三人もあたりを探る。

ハムレット 何時だ?
 
 ホレイショーは星を見て、

ホレイショー そろそろ亡霊の出る時間です。    
 
 そこへ花火があがる。

ホレイショー ・・・殿下、あれは?
 
 ハムレットは花火を見る。

カット3 花火 ハムレット ホレイショー
 
 花火があがる。

ハムレット ・・・王の祝宴。飲めや歌えの馬鹿騒ぎだ。王が酒を飲み干すたびに、花火をあげてるんだ。

カット4 ハムレット ホレイショー


ホレイショー
 デンマークの習慣ですか?
ハムレット ・・・ああ、馬鹿な習慣だ。あんなこと止めればいいのに。吐くほど大酒を食らうから、よその国の連中にバカにされる。おかげで、どんな立派な功績を上げても正当に評価されない。

カット5
 ハムレット

ハムレット
 これは生まれつきの欠点があるために、どんなに多くの長所を持っていても非難されるのと同じよ。  

カット6 バナードー マーセラス
 
 
 バナードーとマーセラスが話し合っていると亡霊が近づいてくる。 二人は驚いて後ずさりする。

カット7 ホレイショー 

 
 亡霊はホレイショーに近づいてくる。 ホレイショーも亡霊に気づいて驚く。

ホレイショー で、殿下! あ、あらわれました・・・
 
 と、あまりの恐ろしさにそれだけしか言えない。

カット8
 ハムレット
 
 亡霊はハムレットに近づいてくる。 ハムレットも驚くが毅然として亡霊を凝視する。 亡霊はわが子を確認したので、二人きりになれるところへ連れて行こうとハムレットの手をつかむ。

ハムレット
 ・・・離せ!  
 
 ハムレットはつかまれていた手を離し、

ハムレット
 ・・・何者だ! 聖霊か悪魔か! 天国から来たのか、地獄から来たのか! ああ、なんと呼べばいい。ハムレット王! 国王! 父上! デンマーク王! 答えてくれ! なんのために現れたのだ?
 
 亡霊は手招きしたようだ。 ハムレットは亡霊について行く。

カット9 ホレイショー 
 
 
 茫然と見ていたホレイショーは危険を察知して、

ホイショー
 殿下!  
 
 慌ててハムレットのところへ、

カット10 ハムレット ホレイショー バナードー マーセラス


ホレイショー
 ・・・だめです。  
 
 ハムレットはホレイショーを払いのけて、

ハムレット
 大丈夫だ。命など惜しくない。霊魂ならおれも不滅のはずだ。  
 
 と急ぎ足で亡霊についてゆく。  ホレイショーたちは追う。

カット11 ホレイショー ハムレット
    
 
 ホレイショーはハムレットをつかんで、

ホレイショー
 断崖絶壁に連れて行き、そこで魔性のものに変わって、殿下を狂わせたら? 行かないでください。危険です。
ハムレット 放せ。

カット12 ハムレット ホレイショー バナードー マーセラス 


ホレイショー
 いいえ。
ハムレット 放せ!ハムレット おれの運命が呼んでるんだ! さあ、放せ!
 
 ハムレットはみなを振り払う。

カット13 ハムレット ホレイショー バナードー マーセラス
 

ハムレット
 邪魔をするな、おれは行く!
ホレイショー・バナードー・マーセラス ・・・  
 
 ハムレットは振り返って、

カット14 ハムレット 
 
 
 ハムレットは亡霊を見て、

ハムレット
 さあ行け、ついて行くぞ。    
 
 ハムレットは亡霊について行く。

カット15 ホレイショー バナードー マーセラス


ホレイショー
 ・・・錯乱されている。後を追おう。殿下! ハムレット 様!
バナードー・マーセラス 殿下!    
 
 三人はハムレットの後を追う。

シーン7

カット1 ハムレット

 
 ハムレットは亡霊について行く。

カット2
  ホレイショー バナードー マーセラス
 

 三人はハムレットを見失う。  

カット3 ハムレット

 
 亡霊について行っていたハムレットは立ち止まり、

ハムレット
 どこまで連れて行く? もうこれ以上行かないぞ。

カット4
 ハムレット
 
 亡霊はゆっくり近づいてくる。 ハムレットは思わず倒れこむ。 亡霊はハムレットを見下ろして、

亡霊の声
 聞け!
ハムレット ・・・
亡霊の声 おまえの父の亡霊だ。
ハムレット ・・・  
 
 ハムレットは目を見開く。 亡霊はハムレットから目をはずしまわりながら、

亡霊の声
 夜はこうしてさまよい歩き、昼は地獄の炎に焼かれている。あの世のことはこの世の人間に語ることはできないが、それを知ればおまえの魂は凍りつく。  
 
 ふたたび亡霊はハムレットをとらえる。

亡霊の声
 聞け、よく聞け! おまえがほんとうに父を愛していたなら、極悪非道な人殺しに復讐してくれ!
ハムレット 人殺し?
亡霊の声 人殺しは言うまでもなく残忍なこと。だがこれほど非道極まる残忍な人殺しはない。
ハムレット ・・・
亡霊の声 わたしは庭で昼寝の最中に毒蛇に噛まれたと。だが、よく聞け! 父を殺したその毒蛇は、いま王冠をかぶっている。
ハムレット 王冠?・・・叔父が? 
亡霊の声 そうだ。あの不義不倫のけだものは、貞淑なわたしの妃を情欲の餌食にした。生来の悪徳でな。
ハムレット ・・・
亡霊の声 朝が近い。話を急ごう。  
 
 ハムレットは天を見る。

ハムレット
 (固唾を呑む)
亡霊の声 いつものように、わたしは庭で昼寝をしていた。おまえの叔父が忍び寄ってきた。そして、毒液をわたしの耳に注ぎこんだ。たちまちわたしの全身を駆けめぐった。
ハムレット ・・・
亡霊の声 わたしは眠ってる間に、実の弟に、命と王冠と妃を一度に奪われたのだ。わたしが犯したさまざまな罪を懺悔する暇もなく、罪を背負ったまま、神の裁きの前に引き出されたのだ。
ハムレット ・・・
亡霊の声 恐ろしい! なんと恐ろしいことだ。ハムレット、親を思う気持ちがあるなら、デンマーク王家を、情欲と不倫の館にするな! 
ハムレット ・・・
亡霊の声 だが、どんなことがあっても、心は汚すな、母には危害を加えるな! 母は天の裁きに任せ、苦しませておけ。では行くぞ。  
 
 カメラズーム。

亡霊の声 父を忘れるな・・・忘れるな・・・忘れるな・・・  
 
 亡霊の光は消える。

カット5 ハムレット  
 
 暗闇の中から、

ハムレット 忘れるな・・・忘れるな・・・忘れるな・・・忘れるものか!これまでのくだらん記憶はきれいさっばり洗い流して、おまえの命令だけは覚えておく。絶対に覚えておく。

カット6 クローディアス ガートルード
 
 
 クローディアスと母の抱擁。

カット7 ハムレット


ハムレット
 ああ、なんてひどい女だ! 
カット8 クローディアス ガートルード  
 
 クローディアスとガートルードの笑い顔

カット9 ハムレット


ハムレット
 ・・・悪党め! あの悪党め! 笑ってやがる。人は笑いながらワルをする。いいか悪党、覚悟しろ!  

シーン8

カット1 ホレイショー バナードー マーセラス

 
 ハムレットを見失ったホレイショーとバナードーとマーセラスは、ハムレットを捜している。

ホレイショー
 殿下!
バナードー ハムレット様!
マーセラス ハムレット様!
カット2 ホレイショー バナードー マーセラス ハムレット
ハムレット ここだ。  
 
 三人はハムレットのところへ急いで行く。

カット3 ホレイショー

ホレイショー
 どうでした?
カット4 ハムレット
ハムレット ・・・話せない・・・人に洩らす。  
 
 ハムレットは三人から逃げる。

カット5 ハムレット ホレイショー バナードー マーセラス   
 
 三人は追いかけて、
ホレイショー 洩らしません。
バナードー どんなことがあっても
マーセラス 絶対に!  
 
 ハムレットは立ち止まり、

ハムレット
 デンマークの悪党はよほどのワルだな。
 
 と言い捨てて去る。
 ホレイショーは追いかけて、
ホレイショー そんなことを言いにわざわざ亡霊が?
ハムレット そう。じゃあ、これで。
 
 ハムレットは去る。

カット6 ホレイショー ハムレット

 
 ホレイショーはハムレットを引き止めて、

ホレイショー
 何があったんです?
ハムレット 気にさわったらあやまる。
ホレイショー 気にさわることなど・・・

カット7 ハムレット ホレイショー バナードー マーセラス


ハムレット
 あの亡霊はほんものだ。それだけは言っておく。
 
 ハムレットは去る。

ホレイショー
 殿下!

カット8 ハムレット ホレイショー  バナードー マーセラス

 
 ハムレットは振り返って、

ハムレット
 友達として頼む。今夜のことは絶対秘密に。
ホレイショー はい。
ハムレット お前たちも。

カット9 バナードー マーセラス ホレイショー ハムレット


バナードー マーセラス
 はい。
亡霊の声 誓え!  
 
 ハムレットたちは驚く。

カット10  ハムレット ホレイショー バナードー マーセラス  

 
 ハムレットたちは天を仰ぎ見る。

亡霊の声
 誓え!
 
 ハムレットは亡霊を捜しながら動く。

カット11 ハムレット ホレイショー バナードー マーセラス
 
 
 ハムレットは肖像画を天に向けて、

ハムレット
 さあ、この肖像画にかけて、今夜見たことは話さないと誓ってくれ。
亡霊の声 誓え!

カット12 ホレイショー ハムレット


ホレイショー
 どうしてこんな不思議なことが・・・
 
 ハムレットはホレイショーに近寄って、

ハムレット だから何も聞かないでくれ!この世には、哲学では考えもしないことがたくさんあるんだ。
 
 ハムレットは誓う所を捜す。

カット13 ハムレット ホレイショー バナードー マーセラス  

 
 ハムレットは誓う所へ行って、

ハムレット
 さあここで誓ってくれ。  
 
 ホレイショー、バナードー、マーセラスはハムレットのところへ行く。

カット14 ハムレット

ハムレット おれはこれから奇妙な行動をし、時には気違いの真似をするかもしれない。そんな時は、とにかく知らん顔をしてくれ。いいな。さあ誓え!

カット15 ハムレット ホレイショー バナードー マーセラス

 
 ホレイショー、バナードー、マーセラスは手を差し出して誓う。

カット16 三人の手

 
 三人は肖像画から手を離す。

カット17 ハムレット

ハムレット ・・・よし、これでいい。この世の関節がはずれたんだ。

カット18 ハムレット


ハムレット
 ・・・ああ、おれはそれを治すために生まれてきたのか!  
Hiroshima HAMLET パート2
シーン9

カット1 無数の本 ハムレット  
 
 無数の本がある。   
 そこへハムレットが現れる。 ハムレットは目的の本があるはずのコーナーを探している。

カット2 ハムレット
 
 
 ハムレットはなおもコーナーを探している。

カット3 ポローニアス

 
 ポローニアスが現れる。
 ポローニアスはニタッと笑ってハムレットの後を追う。

カット4 ハムレット
 
 
 ハムレットは目的のコーナーを見つけて立ち止まる。  
 ハムレットはさらに目的の小コーナーを探す。  
 ハムレットがコーナーを探しながら歩いてくると、前場のハムレッ とは様相が変わりスーツを裏返しに着ていることがわかる。  
 目的のコーナーがあった。  
 ハムレットは立ち止まる。
 ハムレットは本を探しながら本棚の下段から上段へと目を向けてゆく。  
 上段に本があった。

カット5 ハムレット
  
 
 ハムレットは見上げて、本の題名(Consideration about the departed soul)を読む。

ハムレット
 亡霊についての考察。  
 
 ハムレットは目を輝かせて本を取り出す。

カット6 ハムレット
 
 
 本を取り出して開く。 目次を見て、関心のあるページをめくる。 そのページを読む。 本を読みながらその場に座る。

カット7 ポローニアス 
 
 
 ポローニアスはハムレットにゆっくり近づいてゆく。

カット8 ハムレット
 
 
 ハムレットはポローニアスの気配を感じ、ポローニアスをちらっと見てからなお本を読む。

カット9 ポローニアス  

 
 ポローニアスは近づいて、

ポローニアス
 殿下、わたしがおわかりで?

カット10 ハムレット 
 
 
 ハムレットはポローニアスを見て、

ハムレット 魚屋だ。いや魚どころか女も売ってるそうだな?

カット11 ポローニアス
 
 
 ポローニアスは苦笑して、

ポローニアス
 とんでもない。

カット12 ハムレット
 
 
 ハムレットは間髪要れず、

ハムレット
 なら正直者か?

カット13 ポローニアス  

 
 ポローニアスは真顔になって、

ポローニアス
 ・・・正直者?

カット14 ハムレット ポローニアス

 
 ハムレットはポローニアスに近寄って、

ハムレット
 ああ。近頃、正直者は一万人に一人だ。娘はいるか?
ポローニアス はい。
ハムレット 外へ出すな。世の中を認識するのはいいが、おれが妊娠さ せたらまずいからな。
 
 ハムレットはそう言い捨ててポローニアスから離れる。
 ポローニアスの傍白

ポローニアス
 ・・・やはり娘のことだ。すっかりいかれてる。  
 
 ポローニアスはハムレットの後を追う。

カット15 ハムレット

 
 ハムレットは階段に座り、続きを読む。

カット16 ポローニアス

 
 ポローニアスはついてきて、

ポローニアス
 何をお読みで?

カット17 ハムレット
 
 
 ハムレットはポローニアスを見てから、

ハムレット 言葉、言葉、こ・と・ばだ。

カット18 ポローニアス


ポローニアス
 中にはなにが?

カット19 ハムレット
 

ハムレット
 だれとだれの仲だ?

カット20 ポローニアス


ポローニアス
 いいえ、本の中身です。

カット21 ハムレット


ハムレット
 悪口だ。こいつなかなか辛辣な男で、こう書いてる。  
 
 ハムレットは本越しにポローニアスを見ながら、

ハムレット
 「老人は髭白く、顔はしわだらけで、目からは目やに」

カット22 ホーローニアス
 
 ポローニアスは不審に思い、本の中身を読もうとする。

カット23 ハムレット ポローニアス

 
 ハムレットは本を読まれないように本を隠しながら、

ハムレット
 「頭はボケて、ひざはガクガク、腰はヨロヨロ」。  
 
 ポローニアスはよろけて・・・・

カット24 ポローニアス ハムレット  

 
 ポローニアスは倒れる。 

ハムレット
 まったくこいつの言うとおりだが、なにもこうまで書くことはないな。
 
 ハムレットは本を投げ出す。

ハムレット
 おまえだってカニのように後ろ向きに歩けば、若返る。  
 
 ポローニアスの傍白

ポローニアス
 気違いにしては、筋が通ってる。 ・・・殿下、根をつめるのはお体に毒、お食事でも。
 
 といってポローニアスは投げ出された本を片付けようとする。

ハムレット
 さわるな!

カット25 ポローニアス ハムレット


ポローニアス
 ・・・では私はこれで失礼させていただきます。  
 
 と言ってポローニアスは立ち去ろうとする。
 ハムレットはキレて、

ハムレット
 いただく?

カット26 ハムレット ポローニアス

ハムレット それ以上お前にいただいて欲しくない。

カット27 ポローニアス ハムレット  

 
 ポローニアスは怯える。

ハムレット
 ・・・もっとも命は別だ。

カット28 ハムレット


ハムレット
 命ならいくらでもくれてやるぞ

カット29 ポローニアス ハムレット


ポローニアス
 ・・・滅相もない。では殿下。  

カット30 ポローニアス ハムレット

 
 ポローニアスはそそくさと去る

カット31 ハムレット
 
 
 ポローニアスを見ていて、

ハムレット
 うるさい爺だ。  

シーン10

カット1 オフィーリア ふたつの影 

 
 円形の窓から読書室が映し出される。
 しばらくしてオフィーリアが窓の向こうの階下をゆっくり歩いていくのが見える。
 円形窓に現れるふたつの影。

カット2 オフィーリア

 
 オフィーリアは神妙な顔をして読書台に行って、しぐさで「ここ?」と円形窓から覗く人物に尋ねる。

カット3 ポローニアス 王

 
 円形窓から見ていたのはポローニアスと王。 
 ポローニアスは「そうだ」とうなずく。

カット4 オフィーリア
 
 
 オフィーリアは読書台の明かりをつけて椅子に座り、おもむろに祈祷書を開いて読む。

カット5 ポローニアス 王 オフィーリア ハムレット
 
 
 円形窓の二人とオフィーリア。  
 静寂。  
 しばらくして図書室のドアが開いてハムレットが現れる。  
 王とポローニアスは目配せしてハムレットを注視する。

カット6 ハムレット オフィーリア
   
 
 ハムレットはドアを開けるとオフィーリアが本を読んでいるので、

ハムレット
 森の妖精、僕の罪も祈ってくれ。
 
 と言って引き返す。  
 オフィーリアは予想が外れ父を見る。

カット7 ポローニアス 王
 
 
 ポローニアスはオフィーリアに後を追えと合図する。

カット8 オフィーリア
 
 
 オフィーリアはうなずいてハムレットを追いかける。

カット9 王 ポローニアス

 
 王とポローニアスはハムレットとオフィーリアを追う。

カット10 ハムレット オフィーリア
 

オフィーリア
 殿下。最近、お体の調子は?  
 
 このオフィーリアのじぶんをすでに狂人あつかいにしている言葉にハムレットは立ち止まり

ハムレット
 おかげで元気だ。  
 
 オフィーリアはハムレットに近寄り、

オフィーリア
 いただいたもの、ずっとお返ししようと。お受け取りください。
 
 と、オフィーリアは贈り物を差し出す。

カット11 ハムレット オフィーリア
 
 
 ハムレットは振り返り、贈物を見てからオフィーリアを見る。恋人に贈物を返されたという事実を認めたくないので、 

ハムレット
 何もやった憶えはない。
オフィーリア そんな!

カット12 オフィーリア ハムレット


オフィーリア
 優しいお言葉をそえてくださったからうれしくて、その香りが消えた今は必要ありません。どうぞ。  
 
 と、ふたたび贈り物を差し出す。

カット13 ハムレット オフィーリア

 
 ハムレットは贈物を仕方なく受け取りオフィーリアを見ると、母の像と重なる。

カット14 母

 母は微笑んでいる

カット15 オフィーリア


 母の像がクロスフェードすると、

オフィーリア
 ・・・
 
カット16 ハムレット オフィーリア


ハムレット
 ・・・おまえは貞淑か?
オフィーリア わたしが?
ハムレット 美しいか?
オフィーリア なぜそんなことを?
ハムレット おまえが貞淑で美しいなら、その二つは一緒にさせないほうがいい。

カット17 オフィーリア ハムレット


オフィーリア
 美しさと貞淑は、よい取り合わせでは?

カット18 ハムレット オフィーリア


ハムレット
 いや、美しさが貞淑な女を不倫に陥れる。

カット19 母 王

 
 ハムレットはまた母と王の抱擁を思い出す。

カット20 ハムレット オフィーリア


ハムレット ・・・おまえを愛してた。

カット21 オフィーリア ハムレット


オフィーリア
 わたしも・・・そう信じてました。

カット22 ハムレット オフィーリア

 
 ハムレットはオフィーリアにキスをしようとする。
 オフィーリアは目を閉じる。
 その顔にハムレットは言葉を吐きつける。

ハムレット
 残念だな。愛してなんかいなかった。
 
 とハムレットは動く。

オフィーリアの声
 そんな。
 
 ハムレットは振り返って、   

ハムレット
 女なんかやめてしまえ! 
 
 と、オフィーリアを突き飛ばす。

カット23 オフィーリア
 
 
 突き飛ばされるオフィーリア。

オフィーリア
 ・・・

カット24 ハムレット オフィーリア


ハムレット
 なぜ罪深い人間を生みたがる? おれはこれでもまっとうなつもりだが、それでも母が産んでくれなければよかったと思うほど罪深い人間だ。傲慢で、執念深く、野心満々・・・

カット25 王
 

ハムレットの声 想像だけでまだ実行できない罪を抱えている。

 王はハムレットのこの言葉でハムレットの狂乱が国王になるのをじぶんに妨害された野心と見る。

カット26 ハムレット オフィーリア


ハムレット
 そんな男が天地を這いずり回って、いったい何ができる?おれたちはみんな悪党だ。だれも信じるな! 女なんかやめてしまえ! 親父はどこにいる?

カット27 オフィーリア
   
 
 オフィーリアは父が盗み聞きしているのをハムレットに気づかれるのではないかとおどおどして、

オフィーリア
 ・・・い、家に。

カット28 ハムレット


ハムレット
 じゃあ、閉じこめておけ! 外でバカな真似をしないようにな。

カット29 ポローニアス

 
 ポローニアスはハムレットの言葉を苦々しく聞く。

カット30 ハムレット オフィーリア
 
 
 ハムレットはオフィーリアを責めてゆく。  
 オフィーリアは怯えながら逃げる。  
 ハムレットはなおも執拗に責めてゆく。

ハムレット
 もし結婚するなら、持参金代わりに呪いの言葉をくれて  やる。おまえが氷のように貞淑で、雪のように清純でも、世間はなにかと非難する。女なんかつまらんもんだ! どうしても結婚したいなら、バカとしろ。利口なやつは結婚なんかしないからな。おまえたち女は、顔を塗りたくり、神からさずかった顔を作り変える。尻を振り、甘ったれて、「知らなかったわ」などとぬかす。  
 
 ハムレットはキレて・・・

カット31 ハムレット 

 
 ・・・怒号を発しながら後ずさりする。

ハムレット
 もうがまんできん!おかげで気が狂った! 
 
 ハムレットは見上げて、

ハムレット
 ええい、結婚など、この世から消えてなくなれ! すでに結婚してる者は許す! 生かしておいてやる。あのひと組以外はな。他の者は生涯独身でいろ!  
 
 ハムレットはオフィーリアに贈り物を投げつける。
カット32 オフィーリア  
 
 オフィーリアに投げつけられる贈物。

オフィーリア ・・・ (音楽)

カット33 ハムレット

 駆け出して逃げるハムレット。

カット34 オフィーリア
 
 オフィーリアは、ハムレットが投げ捨てた贈り物を見て号泣する。

カット35 王 ポローニアス

 
 盗み聞きしていた王とポローニアスが現れて、音楽止む。

 恋? 違うな。話すことは脈略を欠いているが、狂気とは思えん。危険だな、このままでは。
ポローニアス はい。
 イギリスへ行かそう。
ポローニアス 名目は?

カット36 王


 貢物の取り立てだ。異国の風物に接すれば、気も晴れるだろう。身分の高い者の狂気は許せん!  

シーン11

カット1 ハムレット

 
 ハムレットは橋の上に立って川を眺めている。 カメラはズーム。

カット2 ハムレット


 ハムレットは振り返って、

ハムレット
 生きる・・・死ぬ・・・ふたつにひとつ・・・残酷な運命を堪え忍ぶか、それとも苦難に立ち向かって死んでしまうか・・・死とは眠り。それだけのことだ。眠れば苦しみが消える・・・ いや、眠れば夢を見る。それが気になる・・・死んで人はどんな夢を見るのか? それを思うと、つい弱気になり、辛い人生にも執着してしまう。でなければ・・・

カット3 ハムレット

ハムレット ・・・だれが世間の非難に耐えられるか・・・権力者の横暴、尊大な者の傲慢、かなわない恋の苦しみ、役人の横柄な態度、相手の寛容につけこみ、のさばりかえるクズども! そんなことに耐えるより・・・

カット4 ハムレット


ハムレット ・・・死んだほうがましだ・・・人はなぜ不平たらたら、汗水たらして、辛い人生を生きるのか? 死後の世界に不安があるからだ。だれもそこから戻ってきたことがないからだ。死の恐怖を体験するより、現在の苦しみのほうがまし。この判断が人を臆病にしてしまう。そのために確固とした決意が揺らぎ、のるか、そるかの大事業も実行できずに終わってしまうのだ。

シーン12

カット1
 公爵 ヴァイオラ
 
 船の難破によって最愛の兄を失ったヴァイオラは、漂流した地で生きていくために男装してシザーリオと名を変えて公爵に仕えているが、すぐに公爵を愛するようになっていた。
 音楽が流れている。 公爵とヴァイオラは静かに音楽を聴いている。しばらくして、
公爵 ・・・シザーリオ、片想いの辛さがわかるか?
ヴァイオラ ええ、よく。

カット2 公爵

公爵
 片想いは辛い・・・食欲もわかないし、仕事も手につかない・・・ただオリヴィアの面影だけを追っている・・・

カット3
 ヴァイオラ

ヴァイオラ
 そう、面影だけを・・・

カット4 公爵


公爵
 人を好きになるなんておかしなことだ。

カット5 ヴァイオラ


ヴァイオラ
 ええ、おかしなことです。

カット6 公爵 ヴァイオラ


公爵 ・・・・・・シザーリオ、好きな子がいるか?
ヴァイオラ はい。
公爵 どんな子だ?

カット7 ヴァイオラ


ヴァイオラ
 公爵のような・・・・・・

カット8 公爵 ヴァイオラ


公爵
 年上か?
ヴァイオラ はい。
公爵 やめたほうがいいな、年上は。男はしょせん浮気者・・・

カット9 ヴァイオラ


公爵
 ・・・惚れやす いが飽きるのも早い。すぐに若い子に目移りしてしまう。
ヴァイオラ 公爵もですか?

カット10 公爵


公爵
 ・・・・・・おれはオリヴィア一筋だよ。 

カット11 ヴァイオラ


ヴァイオラ
 ・・・・・・

カット12 公爵


公爵
 女はバラの花。美しさははかない。咲いてもすぐに散る。 

カット13 ヴァイオラ


ヴァイオラ
 そのとおりです。悲しいことに女は、花の盛りが散ってゆ く時なのです。

カット14 公爵 ヴァイオラ

 ヴァイオラの「花の盛りが散ってゆく」という言葉で公爵はオリヴィアを一刻も早く手に入れたいと思ってヴァイオラに、

公爵
 シザーリオ、もう一度、あの人のところへ行け! 

カット15 公爵 ヴァイオラ


公爵
 財産も領地もいらない。おれが好きなのはオリヴィアだけだと言ってくれ! (音楽CO)

カット16 ヴァイオラ 公爵
 
 
 ヴァイオラは立ち上がり、

ヴァイオラ
 でも、愛せないと言われたら?
公爵 聞きたくない。    
 
 公爵は逃げる。

カット17 ヴァイオラ 公爵


ヴァイオラ
 でも聞かなくては?・・・・・・もしある女が、あなたを愛 し、苦しんでるのに、愛せないと言われたら・・・・・・
 
 公爵は振り返りながら、

公爵
 こんな苦しい恋に耐えられる女なんかいるものか! 女の愛はちっぽけなもの。おれの愛は海のように凄まじい。つまらん女の愛とは比較にならん。
 
 公爵はヴァイオラから逃げる。ヴァイオラは追いかけて、

カット18 ヴァイオラ 公爵
 

ヴァイオラ
 でも知っています、わたしは。痛いほど。 
公爵 なにをだ?
ヴァイオラ 女の愛がどんなものか! けっしてわたしたち男に劣り ません・・・・・・父の娘が、ある男を愛しました。わたしが女なら、あなたを愛したような、深い愛でした。
公爵 ・・・・・・で、どうなった?
 
 公爵を見つめていたヴァイオラは公爵から視線をそらし、

カット19 ヴァイオラ 
 

ヴァイオラ
 ・・・白紙のままです。  
 
 音楽。

ヴァイオラ
 ・・・・・・だれにも恋を打ち明けないで、バラの蕾に巣くう 虫が、花の命をむしばんでゆくような片思いに・・・・・・ひとり悩ん だのです。 そして、しだいにやつれてゆき・・・・・・蒼ざめた憂いに沈み・・・・・・それでも、石の像のように、辛抱強く、悲しみに耐えていました。

カット20 ヴァイオラ 公爵


 石の像のように立ち尽くしているヴァイオラ。

カット21 ヴァイオラ 公爵

 
 ヴァイオラは振り返りながら公爵に、

ヴァイオラ
 これがほんとうの恋ではありませんか? わたしたち男はやたらと誓いを立てます。でもそれは、見せかけだけのもの。心にもないことばかりで、愛ではありません。 行ってきます。
公爵 ああ。 
 
 ヴァイオラは恋の使いにいく。

カット22 ヴァイオラ 公爵

 
 心打たれた公爵はヴァイオラを呼び止めて、

公爵
  で、その娘は恋に死んだのか?  

 ヴァイオラは振り返らず歩く。

カット23 ヴァイオラ
 
 ヴァイオラは立ち止まり、

ヴァイオラ
 今はわたし一人です・・・・・・わたし一人しかいないのです。
 
 ヴァイオラの目から涙が流れ落ちる。 ヴァイオラはゆっくり歩いて行く。

シーン13

カット1 ハムレット

 
 舞台劇「十二夜」の場面がクロスフェードすると、橋の上のハムレット。つまりハムレットは「十二夜」という芝居を夢見ていたのである。ハムレットは目を覚まして、

ハムレット ・・・役者か・・・役者とは不思議なものだ。たかが作り話なのに、うその情熱に酔い、魂を委ねる。全身全霊を傾けて、役の人物になりきる・・・ もし役者がおれを演じたらどうなる? ・・・きっと舞台を涙で満たし、すさまじい台詞で観客を唖然とさせるだろう・・・ それに比べておれは・・・臆病者め! こんなに憤りを感じているのに、何もできない。だらしないからだ。でなきゃ、今ごろあいつの肉を鳶のえさにしてる。あの残忍で好色な悪党め! 情け知らずの、恩知らずの、女たらしの悪党め! 復讐だ! 

 ハムレットは立ち上がって行こうとするが、決行する勇気がない。 崩れ落ちる。 涙がとめどもなく流れる。

ハムレット ・・・ああ、おれはなんて馬鹿なんだ。父を殺され、すぐにも復讐しなければならないのに、娼婦のように口先だけで、ののしり、わめき散らすだけ。だめな男だ。頭だ、頭を使え!

 ハムレットは考える。 しばらくして、

ハムレット ・・・罪を犯した者が、芝居を見ているうちに、真に迫った場面に心を動かされ、犯行を自白したという。

 ハムレットは顔の向きを変えて、

ハムレット そうだ・・・父の殺害場面を演じてみよう。おれが演じているのを見て、あいつが顔色を変えたら、もう迷うことはない。復讐だ! ・・・待てよ、おれが見た亡霊は悪魔かもしれない。悪魔は姿を変えて、人を惑わすという。もしかしておれの弱みにつけこんで、おれを破滅させるつもりかもしれない。 ああ、もっと確かな証拠がほしい。 それには芝居だ。あいつの本性をばらしてやる!

 音楽。
 ハムレットは目を輝かせる。この世が牢獄でしかなかったハムレットは、芝居を演じるというひとつの生きがいを発見した。

シーン14

カット1 ハムレット
 
 
 ハムレットは劇中の王妃用のドレスを選ぶ。

カット2 ハムレット
 
 
 ハムレットは王妃用のドレスにハサミを入れる。

カット3 ハムレット
 
 
 ハムレットは王妃用のドレスを切る。

カット4 ハムレット
 

 ハムレットは王用の上着にハサミを入れる。

カット5 ハムレット
 

 ハムレットは王用の上着を切る。

カット6 ハムレット

 ハムレットは王用の上着と王妃用のドレスを縫う。

カット7 ハムレット  

 ハムレットは王用の上着と王妃用のドレスを縫う。

カット8 メイクボックスその他 ハムレット
 
 劇場の楽屋。楽屋には、舞台衣装やメイクボックス、小道具などがおいてある。 ハムレットはメイクボックスを開ける。 鏡を出して立てて椅子に座る。

カット9 皿 リキッド ハケ
 
 
 ハムレット(背面)  皿を取り出し、王妃のリキッドをよく振り、更に注ぐ。ハケを取り出してこねる。

カット10 ハムレット(正面)  
 
 ハケで顔半分を塗ってゆく。

カット11 ハムレット(斜め)
 
 
 王のドーランを塗る。 

カット12 ハムレット(反対斜め)
 
 
 パフで顔をはたく。

カット13 ハムレット(正面)
 
 
 王妃のアイシャドーを入れる。

カット14 ハムレット(斜め)
 

 王妃のアイラインを入れる。

カット15 ハムレット(斜め)
 

 王妃の眉を描く。

カット16 ハムレット(正面)

 王妃の口紅を塗る。

カット17 ハムレット(斜め)  

 王のアイシャドーを入れる。この時、楽屋のドアがたたかれる。 ハムレットはメイクを中断し手をふきながらドアへ。

カット18 ホレイショー ハムレット  

 ハムレットはドアを開ける。  
 ホレイショーはハムレットをひと目見るなり驚く。
 ハムレットはホレイショーを招きいれ、肩を抱いて、

ハムレット ホレイショー、おれはおまえをだれよりも信用している。
ホレイショー ・・・
ハムレット 芝居は好きか?
ホレイショー 見るのは好きです。
ハムレット 今夜の芝居を見たいか?
ホレイショー ええ、殿下が演じられるのですから。

カット19 ハムレット


ハムレット 頼む、今夜の芝居は見ないでくれ。

カット20 ホレイショー

ホレイショー ・・・?

カット21 ハムレット ホレイショー

ハムレット 芝居ではなく、王の様子を見ていてくれ。劇中に父の最期にそっくりな場面がある。その場面のある台詞で王が反応するかどうか見てくれ。

カット22 ハムレット ホレイショー


ハムレット もし王がなにも反応しなかったら、おれたちが見た亡霊は悪魔、幻にすぎないことになる。だからよく見ていてくれ。芝居が終わったら、二人で決着をつけよう。

カット23 ホレイョー ハムレット


ホレイショー 
わかりました。国王のまばたきひとつ見逃しません。

カット24 ハムレット ホレイショー

ハムレット  じゃあすぐに席につけ。

カット25 ハムレット ホレイショー

 
 ホレイショーは急いで客席へ行く。ハムレットも急いで中断していたメイクをする。

シーン15

カット1 観客


 開演前の観客。

カット2 観客)

 開演前の観客。

カット3 観客

 開演前の観客と舞台。
 舞台には回転椅子が一脚、そして姿鏡が置いてあるだけである。
 椅子に客入れ明かりがあたっている。

カット4 レアティーズ オフィーリア  

 レアティーズとオフィーリアがひそひそ話をしている。

カット5  ホレイショー 観客

 ホレイショーがやって来て王を観察できる席を探す。

カット6  ホレイショー 観客  

 ホレイショーは座席に座り、王を観察する。

カット7 王 王妃 侍女 臣下 ポローニアス

 臣下が王にワインを、侍女が王妃にお茶を注いでいる。

カット8 ハムレット 

 ハムレットはメイクが完了し、衣裳の着付けをしている。

カット9 王妃 王

 王妃がお茶を飲みながらパンフレットを見る。 王は酒を飲んでいる。

カット10 パンフレット 王妃

 王妃越しに「Mouse-trap」の上演パンフレットが映し出される。

王妃 ・・・マウストラップ、ネズミ捕り・・・

カット11 ハムレット 

 ハムレットが王妃のかつらをつけている。

カット12 王妃 王

 パンフレットを見ながら、

王妃  (王に) 変な題名ね。

 王は王妃を見てからパンフレットを見る。そして横にいるポローニアスに、 

王 どんな内容だ?

カット13 ポローニアス 王 王妃

ポローニアス まったくわかりません。題名が題名ですから問題がないかどうか何度も尋ねましたが、殿下は「見てのお楽しみ」とそればかり。
 ・・・まあいい、しょせん芝居は芝居だ。なんの足しにもならない。  

 と、王は芝居をするハムレットをあざ笑う。 ファンファーレが鳴り客電がゆっくり消えてゆく。 ざわめきが静まってゆく。

カット14 ハムレット

 暗闇。
 舞台にゆっくり明かりがついていく。 王に扮したハムレットが横を向いて椅子に座っている。
 デンマーク国民に人気のあるハムレットだから、われんばかりの拍手が起こる。

カット15 観客

 拍手をしている観客。

カット16 ハムレット

 拍手が静まるのを待って、ハムレットは横を向いたまま劇中の王に扮しておもむろに語り出す。

劇中の王 結びの神に導かれ、神聖な契りを交わして、早いもので三十年になるな。

 ハムレットはゆっくり回転し、今度は劇中の王妃に扮する。

カット17 観客  
 
 ハムレットの早替わりに思わず身を乗り出す。

カット18 ハムレット

劇中の王妃 愛を育てて三十年。 (天を見上げて) これからも太陽や月は、わたしたちの愛を永久にたたえることでしょう。・・・それにしても近頃とても気になります。、昔のようにお元気がなく、ご気分がすぐれないご様子、心配でたまりません。  

 ハムレットはまたゆっくり回転して王になって語る。

カット19 ハムレット

劇中の王 ・・・身も心も弱り、命運も尽き果てた。おまえを残して旅立つのも、そう遠いことではない。おまえは、わたしに劣らない情の深い人を夫に迎え、残る余生を幸せに暮らすがいい。

カット20 王 王妃

 王妃は王を見る。 王は王妃を見る。

カット21 ハムレット  

 ハムレットはすばやく回転して、

劇中の王妃 何を言われます。あなたに先立たれたら、わたしは独り身を通します。わたしが二人の夫にまみえるなんて。それは、初めの夫を殺すような女のすることです。

カット22 王妃  

 王妃は劇中の王妃の台詞をじぶんの体験に重ね動揺する。

劇中の王妃の声 (大きく) 再婚は欲望の表れ、愛ではありません。

カット23 ハムレット

劇中の王妃 次の夫に抱かれるのは・・・   

 ハムレットは姿鏡で王妃の様子を観察する。

カット24 ハムレット 鏡の中の王妃

劇中の王妃 ・・・亡くなった夫を・・・

カット25 鏡の中の王妃  

 鏡の中に王妃の苦悩の顔がうつる。

劇中の王妃 ・・・二度も殺すことになります。

カット26 鏡の中の王妃

王妃 ・・・

カット27 ハムレット

劇中の王 ・・・その言葉、嘘だとは思わないが、固い決意もとかく破るのが人の常だ。この世に不変のものはなく、ふたりの愛だって、運命と共に揺れ動いてもなんの不思議もない。

カット28 鏡の中の王妃

王妃 ・・・

カット29 ハムレット 観客  

 カメラは舞台上。劇中の王妃越しに観客が見える。

劇中の王 再婚しないというおまえの決意も、最初の夫の死とともに消えてしまうだろう。
 ハムレットはすばやく・・・

カット30 ハムレット  

 ・・・回転して、

劇中の王妃 いいえ、たとえ大地が糧を、天が光りを与えなくても、楽しみや安らぎを奪われても、信頼と希望が絶望に変わっても、未来永劫心の苦しみが続いても、一度夫を失ったら、二度と妻にはなりません。(観衆の拍手)

カット31 観客   

 拍手をしている観客。

カット32 王妃  

 苦悩の王妃。

カット33 ハムレット 観客

劇中の王 (感動して) よく誓った。安心した。愛しい妃、しばらく退ってくれ、少し疲れた。もの憂い午後のひととき、ひと眠りしたい。 劇中の王は椅子にもたれる。

カット34 王

 王は劇中の王を凝視する。

カット35 ハムレット

劇中の王妃 おやすみなさい、あなた。わたしたちの間に災いが訪れませんように。  

カット36 ハムレット

 劇中の王妃は王が寝入ったのを見届けて後ろ歩きで去る。

カット37 王妃

 王妃は沈鬱な表情。

カット38 王  

 王は劇を不審に思う。

カット39 ハムレット 観客

 ハムレットは今度はルシアーナスに扮して登場する。 観客はかすかにどよめく。

カット40 王

 王はルシアーナスを凝視する。 

カット41 ハムレット  

 ルシアーナスは椅子のまわりを徘徊して、あたりをうかがう。 

ルシアーナス (現実の王に堂々と) おれの名はルシアーナス、王の甥だ!

カット42 ハムレット

ルシアーナス (大声で) 大ガラス、復讐せよと叫びたり!  

 ルシアーナスは懐からおもむろに毒薬の瓶を取り出す。

カット43 王  

 王は毒薬の瓶に吸いつけられるように凝視する。

カット44 毒薬の瓶

 ハムレットは毒壺を架空の劇中の王の耳に注ぐ。

カット45 王  

 現実の王は椅子から立ち上がる。

カット46 王妃 王

 劇を見ていた王妃は王が立ち上がったのに気づき、 

王妃 どうなさったの?

カット47 ハムレット

 ハムレットはルシアーナスの衣裳を脱ぎ捨て、劇中の王に扮して苦しみ悶える。

カット48 王 王妃 観客  

 酒を持って立っている王。  王妃は舞台を見ている。

カット49 ハムレット  

 劇中の王は悶え苦しんで死ぬ。

カット50 王 王妃

 王の目の前でじぶんが犯した兄殺しが再現されている。王は否応なしに兄殺しの実景を思い浮かべる。

カット51 王の手

 王の手が震えだす。あの毒を注いだ手がだ。震える手は、止めようとしても止められない。

カット52 王 王妃  

 王はなおも手を震わしている。

カット53 ハムレットの目  

 ハムレットは体を起こし王の醜態を凝視する。 

カット54 

 王は「早く、兄の死骸から立ち去らなければ」と殺害の現場から逃れようとする。

カット55 王 王妃

 王は逃げる。 勢いあまって階段を踏み外す。

カット56 王  

 階段にへたり込み怯える王。

カット57  ハムレット

 ハムレットは起き上がって王を見る。

カット58 ホレイショー  

 王の醜態を見たホレイショーはハムレットを見る。

カット59 王妃 侍女  

 王妃は後悔の念にかられ泣く。

カット60 ハムレット  

 王の醜態を見て、ハムレットは亡霊の言ったことが真実であったことを悟る。

王の声 明かりをつけろ、(大声で) 明かりをつけろ!
ポローニアスの声 明かりだ、明かりだ、明かりをつけろ! 芝居は中止だ!  

 なおも王を見続けるハムレット。芝居の効用に感極まりない。
 その姿が活人画となって暗転。 

エンディングクレジット

黒色の画面に次のような文章がタイピングされる。

原作のハムレットでは
この後
ポローニアスの殺害
母との和解
オフィーリアの狂乱
レアテイーズとの決闘と続き
ハムレットは叔父の国王に毒薬を飲ませて
父の復讐を果たす。
だが
そもそも復讐に終わりはなく
必ず新たな怨念を生み限りなく連鎖する。
シェイクスピアは言っている
「芝居とは時代を写す鏡である」 と。
この言葉を忠実に受け取るなら
このシーン以降に展開される復讐劇は
二十一世紀の現在のわたしたちには
無効で上演する意味がない。
たとえ今もなお復讐が世界で存在しているとはいえ
人間のあるべき未来から 逆に照射したとしたら
復讐とは
人間の障害にすぎないからである。


小林由芽

畑田清彰
深田ちひろ
佐々木将 谷麻帆
守藤亜矢 松本まどか
池内雅俊 宮本雅史
和田宏一 佐倉愛依 上駄周策 浜本葉子
ホーソン慈菜 山本美久 本岡志帆 森本裕貴
三原伸一朗 大越隼 河内剛紀 鎌倉千代則
渡邉いつか 下川諒 長谷川寛 若林叶栄
ホーソン愛実 玉地楓 玉地和麿 小美堂稜工
鈴木洸稀 中山凛香 杉田直美 河島洋三

中島千鶴

原作 ウィリアム・シェイクスピア
脚本 三澤憲治
音楽 高橋一之
舞台照明 木谷幸江
大道具 岡貞彦
衣裳・小道具 三澤憲治
撮影・編集 三澤憲治
ロケ協力 広島県立美術館
ロケ協力 三井ホーム
ロケ協力 財団法人 ひろしま美術館
ロケ協力 広島市南区役所
ロケ協力 広島市現代美術館
ロケ協力 学校法人石田学園 広島経済大学
ロケ協力 株式会社エスペランス       
ロケ協力 広島市西区民文化センター
撮影協力 篠本照明
撮影協力 アースオール
撮影協力 観客役で出演していただいた皆様
監督 三澤憲治

制作・著作 ミサワ・アクターズ・カンパニー
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